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自治労プラザ3階
四国全体で、就労後7年以内の林業労働者数―いわゆる新規就労者―は、400人前後におよび、その3割前後は近畿はじめ四国以外の出身であると推定される。その多くは「自然の中で働きたい、森林で働くことは意義がある」と考えて就労した。 たしかに、森林労働は公益性の高い仕事であるといわれてきた。
しかし、一部の先進的取り組みを除くと、山村自治体においては住宅対策をはじめとする定住にかかわる施策が未成熟である。労働条件にしても長年の慣行を反映する日給制が存続しており、福利厚生など諸制度の整備が遅れていた。
新規就労者たちは、過疎化のコミュニティーに身を置いて、いわば21世紀の新しいライフスタイルを探ろうとする群像である。 彼らを取り巻く諸問題は、山村自治体に何を求めているのであろう。
分権型社会への船出とともに森林法が改正され、都道府県の地域森林整備計画が国の機関委任事務から自治事務へと変わった。同時に、市町村森林整備計画に対する都道府県の関与が縮小されて、市町村は県と事前協議のうえ計画を策定することになり、知事の承認は不要となった。
また、国民の森林に対する意識の変化に合わせて森林のもつ多面的な機能を発揮させることが課題となってきた。市町村は、水源涵養・災害防止機能を重視する「水土保全林」、生活環境・保健文化機能を重視する「森林と人との共生林」、木材生産にウエイトを置く「資源の循環利用林」の三区分に分類する作業に着手した。こうして名目的には、市町村長が森林環境を守る前線司令官の立場に立つことになった。
しかし、法的な制度改革にもかかわらず、たとえば環境資源としての森林保全に向けた政策は、国や自治体においても未整備のままである。
徳島地方自治研究所は2002年2、3月、四国四県の自治労傘下の市町村職員労働組合および各県森林組合連合会などの協力を得て、林業労働従事者のうち7年以内の経験者を対象に仕事や生活上のニーズを聞き取り、行政的な課題をさぐる調査を実施した。
具体的には、自治体職員がそれぞれの管内に居住し、もしくは勤務する新規就労者に面接して聞き取りを行った。
自然相手の仕事を天職とする人々の生活と意見から、当面の自治体政策を考える手がかりを得ようとするものである。就労者がどんな労働条件のもとで働き、暮らしの上でどんなニーズを抱えているか、自治体に対してどんなサービスを望んでいるのか。
おおざっぱな輪郭であれ、こうした情報は、山村自治体の公共サービスの新たな展開を考えるときに不可欠である。ニーズ・リサーチが政策立案の基礎的な作業であることは、言うまでもない。自治体職員がコミュニティー構成員の生活と意見を伺うことは、ごく当然のことである。
多くの山村自治体は今日、歯止めのかからない過疎化に加えて、市町村合併の大波をかぶりつつある。「人間のダム」として相応の機能を果たしてきた役場は定員削減に見舞われ、さらなる過疎化が進行することは目に見えている。中山間地域の振興策、緑の公共事業による雇用創出策が声高に叫ばれている。そうであれば、今日の新規就労者が継続して働いていく条件がととのっているかどうかに注目しなければならない。
本調査は、このような目的でデザインされたのであるが、重要な課題を残したことにも触れておかなければならない。つまり、調査対象とすべき実人数と聞き取りができた人数の間には、大きな格差があるという点である。
徳島県内では、抽出したサンプル数93の9割弱について聞き取りを行ったが、森林面積の広大な高知、愛媛県においてはサンプル数の把握を十分に行うことができなかった。徳島でのサンプル数に照らせば、就労後7年以内の林業労働者は四国全体では400人前後と推定されるが、アクセスできたのは3割弱、121人にとどまる。このため、以下の集計結果には、不本意ながらも徳島県の傾向が大きく現れている。
サンプルの偏りは、端的には労働組合の組織率による制約があったためである。そうではあれ、山村自治体における森林行政の重要性は、労働団体の組織率という問題をはるかに凌駕する。
断片的であれ、ここで得られた知見をもとに当面の行政課題を模索することが、この調査の意義であると考える。